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【金高授業】授業実践❷文学国語「翻案に取り組もう」

原作の教訓を自分事に落とし込む

『物語を紡ぐ』

「糸」の隣に「方」という字で「紡ぐ」
「方」は「並ぶこと」を意味する言葉
素材となる繊維を並べよりをかけて一本の糸にしていく様子が「紡」という文字の由来
美しい糸を紡ぐように、幾千もの言葉を繋ぎ合わせて作られた、高校生のみずみずしい感性「物語」をお楽しみください。

イソップ寓話で翻案作品を創作 生徒作品紹介

佐野洋子さんの『ありときりぎりす』を学んで

推しの作品を選んでいきます

オオカミと少年

 少年は羊飼いであった。小高い丘にある牧場で
いつも羊たちと一緒にいた。少年は羊たちのことを大切にしていたし、羊たちも少年によくなついていた。
 少年には両親がいなかった。自分を産んで捨てたのか、死んだのか定かではない。その代わりに村人たちが少年の面倒をよく見ていた。少年が村に降りてきた時は、いつも声をかけた。「羊飼い」という職も寂しさを少しでも紛らわすためにと村人たちが話し合い、少年に与えたものだった。
 少年は幸せだった。満足していた。羊たちが傍に居て、村の人たちも優しくて、何一つ不自由など無いはずなのに、村で親子を見た時、子ども同士で遊んでいるのを見た時、少年の心にぽっかりと空いた寂しさがあった。
 ある日、少年が羊たちの世話をしていると、森の方に影を見た。見違いかと思ったが今度は遠吠えが聞こえた。少年はすぐに「狼が来る」と思い、村人たちに助けを求めた。村人たちもすぐに牧場へ向かい狼を警戒したが、結局狼は現れなかった。村人たちは少年を心配した。少年にはその言葉が、行動がとても嬉しかった。
 その三日後、少年はまた村人たちに、狼が来たと助けを求めた。あの日と同じ様に村人たちはすぐ駆けつけたが、またしても狼は現れなかった。。村人は怪訝な顔をしながらも少年を心配した。少年は自分が満たされるのを感じていた。その晩、少年は眠りにつこうとすると、羊が少年の元へやってきて「もう村人の優しさの上に胡坐を掻いてはならないよ。他者にしてきたことは、いずれ己にかえってくるのだから。」と言った。少年は何も返さず眠りについた。
 そして四日後、少年は村人たちに狼が来たと嘘をついた。村人たちはすぐに助けに向かうかと思われたが、蓋を開けてみると反応は十人十色であった。心配してすぐに向かう者がいれば、どうせ今日も狼は来ないと行かない者、更には向かう者を止める者までいた。少年は危機感を覚える。このままでは誰も自分を心配してくれないと。村人たちが少年を疑いの目で見た瞬間、少年は苦しくなり、思わずその場から走り出し丘の牧場へ逃げた。牧場へ着くと妙に静かだった。いつもなら草むらにいる筈の羊たちがいなかった。羊たちはどこにいる?不吉な風が少年の頬を撫でた時、少年は森と牧場を隔てる柵が一部壊れていることに気づいた。少年は咄嗟に駆け出し羊小屋に向かった。そこには一面血の海があった。狼が来たのだと少年は理解した。羊たちの臓物が目に映る。今朝まで温かかった肌を思い出す。臭いがする。少年はその場に嘔吐いた。足元にある羊の頭部が喋った。「だから言っただろう。胡坐を掻いてはならないと。」
 少年は後悔した。己の罪深きを。そして嘆いた。少年の声はもう誰にも届かない。

作者の思い

少年の背景を自分なりに付け足した。自業自得のトラウマを一生背負い続ける少年をつくりたかった。

選者からの感想

評1 わかりやすく場所が思いうかんできて勉強になった。話の展開がおもしろく、少年の背景が書いてあることでより一層理解が深まった。
評2 簡潔で読みやすい。
評3 主人公の境遇を少し変えることで本来とは異なった人間の欲を垣間見ることができておもしろかった。話の筋道は変わっていないが、想像のできなかった流れで見事に吸い寄せられた。私は自分の頭の中で考えられないようなことを物語で摂取することが好きなので、今回の話は印象に強く残った。特に後半の生々しい表現でホラー小説を思い出した。文が読みやすいが独特の表現が練り込まれていて世界観作りが上手だなと思った。
評4 教訓がとても残る。→(なぜ)最後がざんこくだから物語の展開がとても好き。(K・I)
評5 この作品はオオカミと少年の原作を基に自分なりに変えていておもしろかった。原作では描かれていない少年の昔のお話を入れることによって少年に感情移入して楽しく読むことができて良かったです。

創作は自分との対話

高校生らしいしなやかな感性で印象に残った作品を講評する

金の斧銀の斧

 今日もマーシーはすっかり手に馴染んだ斧を木に撃ち込んでいた。作業は順調かと思われたが、ある時手から飛び出すように斧が宙を舞う。やってしまったと声を出す前に斧は池に吸い込まれていた。静まる水面を見つめながら後悔の念と向き合う。あの斧は、マーシーの商売道具であり、幼少期を共にした友ソンとの思い出の品だ。ソンは幼いときからぶっきらぼうでよく喧嘩したけれど根は優しい奴だった。彼は、親のいない子供で森で一人生活をしていた。彼の強靱な生命力や逞しさに毎日のように驚いていたが、あの日に比べたらどうってことなかった。ぽんぼろな町に突然金で縁取られた馬車がやってきてソンを奪い去った。聞けば、ソンは行方不明になった貴族の息子だと。もう彼とは二度と会えないのだと確信した。彼と離れて二年、見覚えのない斧が家の前に置かれていた。柄にはリボンが結ばれており、マーシーと名が彫られていた。不器用な文字の形はソンのものに違いなかった。手紙らしきものは何もなかったが彼からのプレゼントだと理解はできた。使うにも勿体無いためお飾りとなってしまっていた斧。ふと、彼がよく森で生きる術を教えてくれたのを思い出す。そしてこの斧が彼の最後の教えであるのではないかと思われて仕方無かった。それからは毎日その斧を握り、家と森を往復する生活となった。あれから、目線の高さもすっかり高くなり時の流れを感じる。物思いに耽っていると、池がざわめき出してうっとりするような女人が姿を現す。呆気に取られていると、
「お前が落としたのは金の斧かそれとも銀の斧か。」
と尋ねてくるものだからびっくりだ。申し訳ないが私が欲しいのはマーシーと彫られたあの斧ただ一つだという旨を伝えると快く受け入れ、斧を返してくれた。金と銀の斧もおまけとして貰ってしまったが、数日後その金と銀の斧は必要が無いため、他の町人に引き取ってもらった。まさかこのやり取りを見ている人がいるとも知らずに。
 俺は偶然、輝きを放つ池を見てしまった。池の様子を伺っていると、一人の男がこの世の者ではないであろう女人から斧を三つも受け取っている。ずるい、反射的にそう思ってしまった。森から急に縛り付けられた貴族の生活に引きずり込まれ、呆れていた。俺は仕来りから逃げるように賭事や遊びを楽しんだ。跡継ぎという立場だったが、金を使い込んで庇いきれなくなったのかまた森に捨てられた。金銀を見るとかつての血が騒ぐ、早く欲しい。次の日、早速池の近くに置いてあった斧を池に投げ捨てる。全てがシナリオ通りに進んだかのように思われたが、金銀の斧を欲したところから崩れ始めた。男の卑しさに憤怒した女人は全ての斧と共に消え去った。悔しさに地団駄を踏んでいると、
「あの斧、どこに置いたんだっけ。」
懐かしい声が近づいてきた。逃げる暇も、己の人生を振り返れば会わせる顔もなく、咄嗟に顔を覆った。
「斧見ませんでしたか。」
「あ、あの斧か、見ませんでしたよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「大事な斧なのにな、困ったな。あの失礼します。もしかして、ソンですか。」
俺は答えに困って顔を覆ったまま立ち尽くした。

作者の意図

登場人物たちに背景ストーリーを付け加えて新しく人物の関係を築いた。翻案というものの型をあまり捉えられていなかったが、逆に自由に書けてよかったと思う。最後、二人が再会してどんな会話をしてどう思うかは敢えて書かなかった。

選者からの声

評1 主人公とサブの主人公の二つの物語を繋げて物語が原作通りになっているのでとてもおもしろいと思った。
評2 視点が変わる場面があるのと物語がつながっているのがすごく読んでいておもしろかった。人物名と登場人物の関係性があることで分かりやすい文章だと思った。
評3 マーシーとソンの関係が新たに構築されていて面白いし、後の展開も考察のしがいがある。

すべてを紹介できませんが・・・生徒一人ひとりのストーリーに魅了された作者です。本当に大切なものは見えないところに存在していて、それを可視化するために文字はあるのかもしれません。でも、文字も言葉も万能ではありません。言葉の背景にあるものを想像する力が育ってくれることを期待します。

みんなにも読んでほしいですか?

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