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【金高文学】わたしを・・・

本歌取りの手法を用いて 文学国語

「本歌取り」とは、和歌の技法のひとつ。
既存の歌を自分の歌に取り入れて、表現効果を重層化させる技法のことです。 この技法を用いることで、既存の歌の持つイメージや情感を新しい歌に取り込むことができます。

2年生文学国語で詩歌の単元を学び、生徒が詩を創作!

学んだのは新川和江さんの「わたしを束ねないで」

新川和江さんの詩を鑑賞するとき、そこには大きな美しい絵が広がる感覚を覚えます。彼女の美しい心の内が生徒たちの中にも届いたようです。
生徒の作品を連歌でお楽しみください。

教室から生み出される文学がある

2年1組生徒作品


わたしを照らさないで
暗い夜道の足元のように
照らさないでください
わたしは電灯
道を照らし明るくする
一本の電灯
       
わたしを折らないで
不気味な皺のついた厚紙のように
もう元には戻らない厚紙のように
折らないでください わたしは絹
果てしなく柔らかく万物を包み
その艶となる

わたしを覆わないで
先の見えない暗いトンネルのように
覆わないでください
わたしは光

わたしを操らないで
ロボットのように
操り人形のように
操らないでください
わたしは感情
時に笑い 時に泣く
わたしの思ったことを
写してくれる顔

わたしを焦らせないで
強い風のように
大きな津波のように
焦らせないでください
わたしは湖
静かな音を 永遠に
聴けていたらどんなに
らくだったか

わたしを捕まえないで
どれいの人々のように
捕まえないでください
わたしは鳥

わたしをしめつけないで
廃品回収にだされる新聞紙のように
しめつけないでください
わたしは鳥 広い大空を何者にも
しめつけられず自由に飛ぶ鳥

わたしを摘まないで
草花のように
摘まないで下さい
わたしはオレンジ

わたしをひっぱらないで
焼く前のお皿のように
型に入れる前の鉄のように
ひっぱらないでください
わたしは星

わたしを使わないで
宮廷の召使いのように
軽々しく扱わないで下さい
わたしは自由
    
わたしを決め付けないで
壁のペンキのように
絵に描かれた空のように
決め付けないでください わたしは虹
雨と晴れとを繋げるための
自由な空の色

わたしを染めないで
淡紅の反物のように
白いカーペットに落ちた一滴のワインのように
染めないでください
私は輝き
何人たりとも真似はさせない
唯一無二の輝(こう)

2年生の廊下 小さなロッカーの中にはそれぞれの学びの道標となる教科書が

「わたしを束ねないで」(詩集『比喩でなく』より)新川和江

わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
,(コンマ)や . (ピリオド)いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

「わたしを束ねないで」
この詩は、私たち一人ひとりの日常の思いを代弁してくれるかのよう。娘、母、妻・・・毎日のなかでたくさんの役割を演じている自分と、内に秘める本当の自分との葛藤を見事なまでに描いていると感じる作品です。




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